インターネット等の普及に鑑み、選挙運動期間における候補者に関する情報の充実、有権者の政治参加の促進等を図るため、インターネット等を利用する方法による選挙運動が解禁されます。
現行の選挙運動の規制
現行の公職選挙法では、選挙の公正、候補者間の平等を確保するため、選挙運動期間中に行われる文書図画の頒布・掲示その他の選挙運動について一定の規制を行っています。インターネット等による情報の伝達も、文書図画の頒布に当たるものとして規制されてきました。
今回の公職選挙法改正により、インターネット等を利用した選挙運動のうち一定のものが解禁されることとなりました。一方で、今までどおりの規制もありますので、注意が必要です。
【選挙運動とは】
判例・実例によれば、選挙運動とは、「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」とされています。
【選挙運動期間に関する規制】
選挙運動は、選挙の公示・告示日から選挙期日の前日までしかすることができません(公職選挙法第129条)。違反した者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処することとされており(公職選挙法第239条第1項第1号)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
【未成年者等の選挙運動の禁止】
未成年者(年齢満20歳未満の者)は、選挙運動をすることができません(公職選挙法第137条の2)。違反した者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処することとされており(公職選挙法第239条第1項第1号)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
また、以下の者も選挙運動を禁止されており、それぞれ、違反した場合の罰則が定められています。
- 選挙事務関係者(投票管理者等)(公職選挙法第135条)
- 特定公務員(裁判官、検察官、警察官等)(公職選挙法第136条)
- 選挙犯罪等により選挙権及び被選挙権を有しない者(公職選挙法第137条の3)
【文書図面頒布の規制】
選挙運動のために使用する文書図画※は、インターネット等を利用する方法により頒布する場合を除き、公職選挙法第142条に規定された一定のもののほかは、頒布することができません。
したがって、ウェブサイト等に掲載され、又は電子メールにより送信された文書図画であっても、それを紙に印刷して頒布することはできません。
違反した者は、2年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処することとされており(公職選挙法第243条第1項第3号)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
※文書図画について
公職選挙法における文書図画とは、文字若しくはこれに代わるべき符号又は象形を用いて物体の上に多少永続的に記載された意識の表示をいい、その記載が象形による場合を図画といい、文字又はこれに代わるべき符号による場合を文書というものとされています。判例上、コンピュータのディスプレイ上に現れた文字等の表示も、公職選挙法上「文書図画」と解されています。
1.ウェブサイト等を利用する方法による選挙運動用文図面の頒布の解禁
<ウェブサイト等を利用する方法>
○ 何人も、ウェブサイト等を利用する方法※により、選挙運動を行うことができるようになります(改正公職選挙法第142条の3第1項)。
※ ウェブサイト等を利用する方法とは、インターネット等を利用する方法のうち、電子メールを利用する方法を除いたものをいいます。例えば、ホームページ、ブログ、SNS(ツイッター、フェイスブック等)、動画共有サービス(YouTube、ニコニコ動画等)、動画中継サイト(Ustream、ニコニコ動画の生放送等)等です。
(インターネット等を利用する方法とは)
「インターネット等を利用する方法」とは、「電気通信の送信(放送を除く)により、文書図画をその受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に表示させる方法」(改正公職選挙法第142条の3第1項)をいいます。
具体的には、インターネットのほか、社内LANや赤外線通信などであっても、「インターネット等を利用する方法」に含まれます。
(電子メールとは)
「電子メール」とは、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子メール法)第2条第1号に規定する電子メール」(改正公職選挙法第142条の3第1項)をいいます。
具体的には、総務省令において、以下の2つが定められています(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第2条第1号の通信方式を定める省令)。
- その全部又は一部においてシンプル・メール・トランスファー・プロトコルが用いられる通信方式(SMTP方式)
- 携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式(電話番号方式)
参考 メッセージ機能の位置づけ
電子メールとして定義された2つの通信方式以外の通信方式を用いるもの、具体的には、フェイスブックやLINEなどのユーザー間でやりとりするメッセージ機能は、「電子メール」ではなく、「ウェブサイト等」に該当しますので、一般有権者も利用可能です。
<表示義務>
○ 選挙運動又は当選を得させないための活動に使用する文書図画を掲載するウェブサイト等には、電子メールアドレス等※を表示することが義務づけられます(改正公職選挙法第142条の3第3項、第142条の5第1項)。
※ 電子メールアドレス等とは、電子メールアドレスその他のインターネット等を利用する方法によりその者に連絡をする際に必要となる情報をいいます。具体例としては、電子メールアドレスの他、返信用フォームのURL、ツイッターのユーザー名が挙げられます。
参考 電子メールアドレス等の具体例
例としては、電子メールアドレスのほか、返信用フォームのURL、ツイッターのユーザー名が挙げられ、その者に直接連絡が取れるものである必要があります。したがって、掲示板等に書き込む際に名乗るニックネームであるハンドルネームのみの記載では認められませんが、そこに張られたリンク先のウェブサイトに連絡先情報が記載されている場合には、表示義務を果たしていると考えられます。
<選挙期日当日の取り扱い>
○ ウェブサイト等に掲載された選挙運動用文書図画は、選挙期日当日もそのままにしておくことができます(改正公職選挙法第142条の3第2項)。
○ ただし、選挙運動は選挙期日の前日までに限られており、選挙期日当日の更新はできません(公職選挙法第129条)。
○ 違反した者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処することとされており(公職選挙法第239条第1項第1号)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
参考 選挙期日の翌日以降の取扱い
ウェブサイト等に掲載した選挙運動用文書図画を選挙期日の翌日以降もそのままにしておくことについては、以下の理由から、基本的には、次の選挙の事前運動の禁止(公職選挙法第129条)に抵触することは考えにくいです。
- ウェブサイト等に掲載された選挙運動用文書図画には、特定の選挙における特定の公職の候補者等に関する内容が記載されていることが多いと考えられること
- 選挙期日以降もそのままにしておいた選挙運動用ウェブサイト等については、選挙期日後新たな文書図画の頒布が行われたとは言い難いこと
2.電子メールを利用する方法による選挙運動用文書図面の頒布の解禁
<利用制限>
○ 電子メールを利用する方法※による選挙運動用文書図画については、候補者・政党等に限って頒布することができるようになります(改正公職選挙法第142条の4第1項)。候補者・政党等以外の一般有権者は引き続き禁止されています。
○ 違反した者は、2年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処することとされており(公職選挙法第243条第1項第3号)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
※ 電子メールを利用する方法とは、特定電子メールの適正化等に関する法律第2条第1号に規定する方法をいいます。その全部又は一部にシンプル・メール・トランスファー・プロトコルが用いられる通信方式(SMTP方式)と、電話番号を送受信のために用いて情報を伝達する通信方式(電話番号方式)の2つが定められています。電子メールとして定義された2つの通信方式以外の通信方式を用いるもの、具体的には、フェイスブックやLINEなどのユーザー間でやりとりするメッセージ機能は、「電子メール」ではなく、「ウェブサイト等」に該当しますので、候補者・政党等以外の一般有権者も利用可能です。
(選挙運動用電子メールの送信が認められる候補者・政党等)
選挙の種類 | 候補者 | 政党等 |
---|
衆議院(小選挙区選出)議員 | ○候補者 | ○候補者届出政党 |
衆議院(比例代表選出)議員 | ○衆議院名簿登載者 | ○衆議院名簿届出政党等 |
参議院(比例代表選出)議員 | ○参議院名簿登載者 | ○参議院名簿届出政党等 |
参議院(選挙区選出)議員 | ○候補者 | ○確認団体 (当該選挙に所属候補者があるものに限る) |
都道府県知事 | ○候補者 | ○確認団体 |
都道府県議会議員 | ○候補者 | ○確認団体 |
指定都市の市長 | ○候補者 | ○確認団体 |
指定都市の市議会議員 | ○候補者 | ○確認団体 |
指定都市以外の市の市長 | ○候補者 | ○確認団体 |
指定都市以外の市の議会議員 | ○候補者 | × |
町村長 | ○候補者 | × |
町村議会議員 | ○候補者 | × |
参考 電子メールの送信主体制限の趣旨
選挙運動用電子メールの送信については、以下のような理由を踏まえ、候補者・政党等が行う場合に限って解禁されたものです。
- 密室性が高く、誹謗中傷やなりすましに悪用されやすいこと
- 複雑な送信先規制等を課しているため、一般の有権者が処罰(2年以下の禁錮、50万円以下の罰金、改正公職選挙法第243条第1項第3号の2)され、さらに公民権停止(公職選挙法第252条第1項・第2 項)になる危険性が高いこと
- 悪質な電子メール(ウィルス等)により、有権者に過度の負担がかかるおそれがあること
参考 選挙運動用電子メールの転送
選挙運動用電子メールを転送する行為は、一般には、新たな送信行為であると考えられます。したがって、候補者・政党等以外の者は、候補者・政党等から送られてきた選挙運動用電子メールを転送により頒布することはできません。
<送信先の制限>
○ 選挙運動用電子メールの送信先には、一定の制限があります(改正公職選挙法第142条の4第2項・第5 項)。
○ これらの規定に違反して選挙運動用電子メールの送信を行った者は、2年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処することとされており(改正公職選挙法第243条第1項第3号の2)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
改正公職選挙法では、選挙運動用電子メールの送信主体は候補者・政党等に限ることとした上で、選挙運動用電子メールが無秩序に送信され、受信者の日常生活に支障を及ぼしたり、想定していない通信費の負担につながったりする場合もあり、電子メールの受信をしたくない有権者もいると考えられることから、送信先についても一定の制限を課すこととされています。
(選挙運動用電子メールの送信先)
選挙運動用電子メールは、次の送信対象者に対して、それぞれ次の電子メールアドレス宛に、送信できることとされています(改正公職選挙法第142条の4第2項)。
| 送信対象者 | 送信対象電子メールアドレス |
---|
① | あらかじめ、選挙運動用電子メールの送信の求め・同意を選挙運動用電子メール送信者に通知した者(その電子メールアドレスを選挙運動用電子メール送信者に自ら通知した者に限る。) | 選挙運動用電子メール送信者に自ら通知した電子メールアドレス |
② | 政治活動用電子メール(選挙運動用電子メール送信者が普段から発行している政治活動用のメールマガジン等)を継続的に受信している者(その電子メールアドレスを選挙運動用電子メール送信者に自ら通知した者に限り、かつ、その後に政治活動用電子メールの送信を拒否した者を除く。)であって、あらかじめ、選挙運動用電子メールの送信の通知を受け、拒否しなかったもの | 政治活動用電子メールに係る自ら通知した電子メールアドレスのうち、選挙運動用電子メールの送信拒否通知をした電子メールアドレス以外のもの |
(選挙運動用電子メールの送信を拒否された場合)
選挙運動用電子メール送信者は、電子メールアドレスを明らかにして選挙運動用電子メールの送信をしないように求める旨の通知を受けたときは、当該電子メールアドレスに選挙運動用電子メールを送信することはできません(改正公職選挙法第142条の4第5項)。
参考 選挙運動用電子メールの送信の求め・同意の通知の効力
選挙運動用電子メールアドレスの送信の求め・同意は、「あらかじめ」得る必要はありますが、「選挙ごとに」得る必要はありません(改正公職選挙法第142条の4第2項第1号)。
参考 電子メールアドレスを「自ら通知」するとは
電子メールアドレスを「自ら通知」(改正公職選挙法第142条の4第2項各号)するとは、自らの意思で、選挙運動用電子メール送信者に対し、当該電子メールアドレスを伝えることをいいます。
(自ら通知したと評価できる例)
- 電子メールアドレスを記載した名刺その他の書面を選挙運動用電子メール送信者に交付すること
- 選挙運動用電子メール送信者に対し通知するため、後援会の入会申込書に電子メールアドレスを記載すること
- 選挙運動用電子メール送信者に対し電子メールアドレスを本文に記載した電子メールを送信すること
(自ら通知したとは評価できない例)
- 選挙運動用電子メール送信者が名簿を購入し、又は当該選挙運動用電子メール送信者の選挙運動や政治活動とは別の目的で作成された名簿を譲り受け、その名簿に掲載されている電子メールアドレスを知るに至った場合
- 選挙運動用電子メール送信者が電子メール配信代行業者を使用してメールマガジンを発行している場合であって、その受信リストに登録されている電子メールアドレスが当該選挙運動用電子メール送信者に通知されないとき
<記録保存義務>
○ 選挙運動用電子メール送信者には、一定の記録の保存が義務づけられます(改正公職選挙法第142条の4第4項)。
(選挙保存用電子メールの送信の求め・同意をした者に対し送信する場合)
選挙運動用電子メール送信者は、選挙運動用電子メールの送信の求め・同意をした者(改正公職選挙法第142条の4第2項第1号)に対し送信する場合には、以下の事実を証する記録を保存しておかなければなりません(同条第4 項第1号)。
- 受信者が電子メールアドレスを選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知したこと
- 選挙運動用電子メールの送信の求め・同意があったこと
参考 保存すべき記録の例
上記①②の事実を証する記録の例としては、受信者からこれらの通知のために送信されてきた電子メールや送信の申込みの書面が考えられます。
(政治活動用電子メールの継続的な受信者に対し送信する場合)
選挙運動用電子メール送信者は、政治活動用電子メールの継続的な受信者であって、選挙運動用電子メールの送信の通知に対し、送信しないよう求める通知をしなかったもの(改正公職選挙法第142条の4第2項第2号)に対し送信する場合には、以下の事実を証する記録を保存しておかなければなりません(同条第4 項第2号)。
- 受信者が電子メールアドレスを選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知したこと
- 継続的に政治活動用電子メールの送信をしていること
- 選挙運動用電子メールの送信をする旨の通知をしたこと
参考 保存すべき記録の例
上記①~③の事実を証する記録の例としては、以下の書面等が考えられます。
- …受信者からこれらの通知のために送信されてきた電子メールや送信の申込みの書面
- …送信時点におけるメルマガの送信先リスト
- …送信者がその通知のために送信した電子メール
参考 記録保存義務違反の取扱い
選挙運動用電子メールの送信先規制に違反した場合には罰則が設けられており、さらに公民権が停止されることとなることから、送信者の立証の便宜のために、法律上、事実を証する記録を保存する義務が設けられたものです。記録保存義務自体の違反に係る罰則はありません。
<表示義務>
○ 選挙運動又は当選を得させないための活動に係る電子メールで送信される文書図画には、送信者の氏名・名称や電子メールアドレス等、一定の事項を表示することが義務づけられます(改正公職選挙法第142条の4第6項・第142条の5第2項)。
○ 表示義務に違反した場合、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処することとされており(改正公職選挙法第244条第1項第2号の2・第2号の3)、禁錮の刑に処せられた場合、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第2項)。
(選挙運動用電子メールの送信者の表示義務)
電子メールを利用する方法により選挙運動用文書図画を頒布する者は、当該文書図画に次の事項を正しく表示しなければなりません(改正公職選挙法第142条の4第6項)。
- 選挙運動用電子メールである旨
- 選挙運動用電子メール送信者の氏名・名称
- 選挙運動用電子メール送信者に対し送信拒否通知を行うことができる旨
- 送信拒否通知を行う際に必要となる電子メールアドレスその他の通知先
参考 「選挙運動用電子メールである旨」の表示方法
具体的には、選挙運動用電子メールの任意の場所であって、受信者が容易に認識できる場所に、「選挙運動用電子メール」といった表示をすることを想定しています。
参考 電子メールアドレスその他の通知先の具体例
電子メールアドレスのほか、例えば、選挙運動用電子メールの配信を解除するための通知を送付できるウェブサイトのURL等を想定しています。
(当選を得させないための活動に係る電子メール送信者の表示義務)
選挙期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間、電子メールを利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者は、当該文書図画に次の事項を正しく表示するようにしなければなりません(改正公職選挙法第142条の5第2項)。
- 頒布者の電子メールアドレス
- 頒布者の氏名・名称
3.選挙運動用有料インターネット広告の禁止
○ 選挙運動のための有料インターネット広告については禁止されています。ただし、政党等は、選挙運動期間中、当該政党等の選挙運動用ウェブサイト等に直接リンクする政治活動用有料広告を掲載することができます(改正公職選挙法第142条の6)。
○ この規定に違反して有料インターネット広告を掲載させた者は、2年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処することとされ(改正公職選挙法第243条第1項第3号の3)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
改正公職選挙法では、以下の有料インターネット広告を禁止することとしています(改正公職選挙法第142 条の6)。
- 候補者・政党等の氏名・名称又はこれらの類推事項を表示した選挙運動用有料インターネット広告(同条第1項)
- ①の禁止を免れる行為としてなされる、候補者・政党等の氏名・名称又はこれらの類推事項を表示した、選挙運動期間中の有料インターネット広告(同条第2項)
- 候補者・政党等の氏名・名称又はこれらの類推事項が表示されていない広告であって、選挙運動用ウェブサイト等に直接リンクした、選挙運動期間中の有料インターネット広告(同条第3項)
(政党等による政治活動用有料インターネット広告)
政党等については、上記①に該当するものを除き、選挙運動期間中、当該政党等の選挙運動用ウェブサイト等に直接リンクした有料インターネット広告を認めることとしています(改正公職選挙法第142 条の6 第4 項)。
政党等は、現在も、選挙運動期間中、政党等のウェブサイトにリンクを張った政治活動用有料インターネット広告が認められていることに鑑み、本改正後も引き続き、現在と同様の態様で行われる有料インターネット広告については可能とする趣旨です。
(選挙運動用ウェブサイト等に直接リンクする有料インターネット広告が認められる政党等)
選挙の種類 | 政党等 |
---|
衆議院議員 | ○候補者届出政党・衆議院名簿届出政党等 |
参議院議員 | ○参議院名簿届出政党等・確認団体 |
都道府県知事 | ○確認団体 |
都道府県議会の議員 | ○確認団体 |
指定都市の市長 | ○確認団体 |
指定都市の議会の議員 | ○確認団体 |
指定都市以外の市の市長 | ○確認団体 |
指定都市以外の市の議会の議員 | × |
町村長 | × |
町村議会議員 | × |
<挨拶目的の有料インターネット広告の禁止>
○ 改正公職選挙法では、候補者及び後援団体による挨拶を目的とする有料インターネット広告も禁止しています(改正公職選挙法第152条第1項)。
○ この規定に違反して有料インターネット広告を掲載させた者は、50万円以下の罰金に処することとされ(公職選挙法第235条の6第1項)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項)。
4.インターネット等を利用した選挙期日後の挨拶行為の解禁
○ インターネット等を利用した選挙期日後の挨拶行為は解禁されます(改正公職選挙法第178条第2号)。
改正前の公職選挙法では、選挙期日後において、当選又は落選に関し、選挙人に挨拶する目的をもって文書図画を頒布し又は掲示することは、自筆の信書及び当選又は落選に関する祝辞、見舞等の答礼のためにする信書を除き、禁止されています(公職選挙法第178条第2 号)。
この規定に違反した者は、30万円以下の罰金に処することとされています(公職選挙法第245条)。
改正公職選挙法では、選挙期日後に当選又は落選に関して選挙人に挨拶をする目的をもって行う行為のうち、「インターネット等を利用する方法」により行われる文書図画の頒布が解禁されます(改正公職選挙法第178条第2号)。
したがって、例えば、選挙期日後、自身のホームページ等において当選又は落選に関する挨拶を記載することや、電子メールを利用して当選又は落選に関する挨拶をすることは可能となります。
5.屋内の演説会場内における映写の解禁等
○ 屋内の演説会場において選挙運動のために行う映写等が解禁されるとともに、屋内の演説会場内におけるポスター、立札及び看板の類についての規格制限は撤廃されます(改正公職選挙法第143条第1項第4号の2、第9項、第201条の4第6項第3号)。
聴覚障害者の参政権保障という観点からの要望も強く、候補者の政見をよりわかりやすく伝えるための手段として、屋内の演説会場内における映写等の類の利用及びポスター等の規格制限は撤廃されます(改正公職選挙法第143条第1項第4号の2、第9項)。
これにより、例えば、演説会において、候補者や政党のウェブサイトをスクリーンに映写しながら政策を訴える、といったことが可能となります。また、ポスター、立札及び看板は、これまでの規格制限(縦273センチメートル、横73センチメートル)を超えたものを掲示することが可能となります。
6.その他
<第三者によるインターネット等を利用した選挙運動に要する支出の取り扱い>
○ インターネット等を利用する方法による選挙運動に要する支出について、第三者は、現行の電話と同様、出納責任者の承諾なく行うことができるようになります(改正公職選挙法第187条第1項)。
<文書図画に記載・表示されているバーコード、QRコード等>
文書図画にバーコードその他これに類する符号(QRコード等)が記載・表示されている場合における公職選挙法の適用については、後述の法定記載事項を除き、その読取り後の表示事項が当該文書図画に記載・表示されているものとされます(改正公職選挙法第271条の6第1項)。
したがって、当該バーコード、QRコード等の読取り後の表示事項に選挙運動性があれば、その文書図画自体が選挙運動用文書図画となります。
バーコード、QRコード等の読取り後の表示事項が、公職選挙法上、文書図画に記載すべきこととされている事項(法定記載事項)であるときは、公職選挙法の適用については、その読取り後の表示事項は当該文書図画に記載・表示されていないものとされます(改正公職選挙法第271条の6第2項)。
したがって、法定記載事項をバーコード、QRコード等により文書図画に記載・表示することは認められないこととなります。
<文書図画を記録したDVD、USBメモリ等の取扱い>
○ 文書図画を記録した電磁的記録媒体、例えばDVDやUSBメモリを頒布することは、当該文書図画を頒布する行為とみなされます(改正公職選挙法第271条の6第3項)。
したがって、例えば選挙運動用文書図画を記録したDVDやUSBメモリを頒布することは、法定外の選挙運動用文書図画を頒布する行為に当たり、認められないこととなります。
誹謗中傷・なりすまし対策等
1.誹謗中傷・なりすまし対策
<氏名等の虚偽表示罪の改正>
○ 氏名等の虚偽表示罪(公職選挙法第235条の5)の対象に、インターネット等による通信が追加されます。
当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって、真実に反する氏名、名称又は身分を表示してインターネット等を利用する方法により通信をした者は、2年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処することとされ(改正公職選挙法第235条の5)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
虚偽事項の公表に関する既存の刑罰
(虚偽事項公表罪)
当選を得させない目的をもって公職の候補者に関し虚偽の事実を公にし、又は事実をゆがめて公にした者は、4年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処することとされ(公職選挙法第235条第2項)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
(名誉毀損罪)
○ 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、3 年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処することとされています(刑法第230条第1項)。
なお、公職の候補者に関する事実に係る場合、真実であることの証明があったときは罰しないこととされています(刑法第230条の2第3項)。
禁錮以上の刑に処せられた場合、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第11条第1項第2号・第3号)。
(侮辱罪)
○ 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処することとされています(刑法第231条)。
<ウェブサイト改ざんに関する既存の刑罰>
(選挙の自由妨害罪)
○ 候補者のウェブサイトの改ざん等、選挙に関し、文書図画を毀棄し、その他不正の方法をもって選挙の自由を妨害した者は、4年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処することとされ(公職選挙法第225条第2号)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
(不正アクセス罪)
○ 他人のID・パスワードを悪用するなどにより、本来アクセスする権限のないコンピュータを利用した者は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処することとされています(不正アクセス行為の禁止等に関する法律第3条、第11条)。
<ウィルスの頒布やDoS攻撃に関する既存の刑罰>
(電子計算機損壊等業務妨害罪)
○ ウィルスの頒布やDoS 攻撃※などにより、コンピュータに使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処することとされています(刑法第234条の2)。
※ DoS(Denial of Service)攻撃とは、コンピュータに不正なデータを送信して使用不能にしたり、トラフィックを増大させてネットワークを麻痺させたりする攻撃です。
<候補者・政党等のウェブサイトURLの周知>
○ 立候補届出書類の様式の改正により、立候補届出の際に、候補者・政党等が各々一のウェブサイトのURL を届け出ることができることとされ、各選挙管理委員会を通じて周知されることとなります。
2.プロバイダ責任制限法の特例
○ 選挙運動又は当選を得させないための活動に使用する文書図画に係る特定電気通信※による情報の流通によって自己の名誉を侵害されたとする候補者・政党等からの情報削除の申出を受けたプロバイダ等の対応について、特例が設けられます(プロバイダ責任制限法第3 条の2)。
※ 特定電気通信とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(放送を除く)をいいます。
<既存のプロバイダ責任制限法に基づく権利侵害情報の削除等に関する枠組み>
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」といいます。)第3条第2項では、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者からプロバイダ等(プロバイダ、掲示板の管理者等)に情報の削除等の申出があった場合、以下に該当するときは、プロバイダ等が当該情報の削除等を行っても民事上の賠償責任は負わないこととされています。
- プロバイダ等が当該情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足る相当の理由があったとき
- プロバイダ等が情報発信者に対し情報削除等の措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、情報発信者が照会を受けた日から7日を経過しても同意しない旨の申出がなかったとき
<プロバイダ責任制限法の特例>
(発信者に対する削除同意照会期間の短縮)
○ 選挙運動期間中に特定電気通信により頒布された選挙運動又は当選を得させないための活動に使用する文書図画に係る情報の流通により自己の名誉を侵害されたとする候補者・政党等からプロバイダ等に情報削除の申出があった場合、プロバイダ等から情報発信者に対する削除同意照会期間が、通常の「7日」から「2日」に短縮されます。
照会を受けた日から2日を経過しても情報発信者から削除に同意しない旨の申出がなければ、プロバイダ等が当該情報を削除しても民事上の賠償責任は負わないこととされています(改正プロバイダ責任制限法第3条の2第1号)。
<電子メールアドレス等が表示されていない情報を削除した場合に係る特例>
○ 選挙運動期間中に特定電気通信により頒布された選挙運動又は当選を得させないための活動に使用する文書図画に係る情報の流通により自己の名誉を侵害されたとする候補者・政党等から、当該文書図画に表示を義務づけられた電子メールアドレス等の表示がないこと等を示してプロバイダ等に情報削除の申出があった場合であって、当該情報発信者の電子メールアドレス等が通信端末機器の映像面に正しく表示されていないときには、プロバイダ等は、当該情報を直ちに削除しても民事上の賠償責任を負わないこととされています(改正プロバイダ責任制限法第3条の2第2号)。
3.選挙に関するインターネット等の適正な利用
○ 選挙に関しインターネット等を利用する者は、表現の自由を濫用して選挙の公正を害することがないよう、インターネット等の適正な利用に努めなければならないこととされています(改正公職選挙法第142 条の7)。
3)その他
1.買収罪の適用
○ インターネットを利用した選挙運動を行った者に、その選挙運動の対価として報酬を支払った場合には買収罪の適用があります。
<買収罪>
○ 当選を得又は得しめる目的をもって選挙運動者に対して金銭等の供与をした者等は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処することとされています(公職選挙法第221条第1項)。
<連座剤>
○ 買収罪の刑に処せられた者が、総括主宰者、出納責任者、地域主宰者、親族、秘書又は組織的選挙運動管理者等に当たることが連座裁判等により確定した場合(親族、秘書及び組織的選挙運動管理者等については禁錮刑以上の場合のみ)には、公職の候補者本人に連座制が適用され、当選無効や立候補制限が課せられることとなります(公職選挙法第251条の2及び第251条の3)。
参考 選挙運動用ウェブサイトや選挙運動用電子メールの企画立案を行う業者への報酬の支払い
一般論としては、業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行う場合には、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者への報酬の支払いは買収となるおそれが高いと考えられます。
参考 誹謗中傷の監視、誹謗中傷を否定する書き込みを行う業者への報酬の支払い
一般論としては、業者が、主体的・裁量的でなく、機械的に候補者への誹謗中傷を監視する場合、あるいは誹謗中傷の内容を単に否定する書き込みを行う場合には、当該行為の限りにおいては直ちに選挙運動に当たるとはいえないことから、一般的には、当該業者への報酬の支払いは直ちに買収とはならないものと考えられます。
2.施行日・適用区分
○ この改正法は、公布の日(平成25年4月26日)から起算して一月を経過した日(平成25年5月26日)から施行され、施行日以後初めて公示される国政選挙の公示日以後に公示・告示される選挙(国政選挙及び地方選挙)から適用されます(改正法附則第1条、第2条)。
3.検討
○ 公職の候補者及び政党その他の政治団体以外の者が行う電子メールを利用する方法による選挙運動については、次回の国政選挙後、その実施状況の検討を踏まえ、次々回の国政選挙における解禁について適切な措置が講ぜられるものとされています(改正法附則第5条第1項)。
○ 有料インターネット広告の特例については、公職の候補者にもこれを認めることについて検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとされています(改正法附則第5条第2項)。